やじさん異世界奮闘記

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ダンジョンでレベル上げ 4


やじさんは食事をとりながら、ぼんやりと考えていた。

夕杏のモンスターが成長しているんじゃないかって言う事も頷けるのだが、しっくりこないのである。

いろいろと可能性のある事を考えてみたが、これといった確証もないので、このまま進んでいいのかどうかが、分からなくなってしまったのである。

「なあ夕杏、このまま突っ込んでもさ、何があるかわかんないし、次の階の状況が分かんなきゃ作戦の練りようがない。とりあえず覗いてこようかなと思うんだけど、どうだ?」

「そうだよね、何が出てくるのか分かってないと、どうしようもないよね、私も一緒に行く事にするわ」

「あー頼む。 という訳でアルさんと騎士団長さんは、ちょっと待機するって、いう事でいいかな?」

「うん、偵察が終わる迄、ここで待ってるよ、足手まといにはなりたくないしね」

「多分、まだ余裕だと思うんだけど、何かあったらすまんですまんからな~、なんちゃって…」

「う~ん そうだな…」

一応、スルーだけはされなかった。

「じゃあ、夕杏、行こか?」

「うん、アルさん、なるべく早く戻るからね」

やじと夕杏はとりあえず、アルさんにとって、どの位の危険度なのかを知るために地下3階へと向かった。

多分自分たちだけであるなら、ごり押しでもなんとかなるだろうけど、一国の王にケガを負わせたくないとの思いからだ。

1階の修復工事は完了していたが、2階はまだ補修中だったので作業の邪魔にならないように通り抜けた。

「なあ夕杏、俺が覗いてみて、何でもなさそうなら、念のためエリアサーチしてみてくれ」

「うん、どうしたの? 何かありそうなの?」

「いや~な予感がするんだよね、なんとなくだけどさ。 じゃあ開けてみるわ」

鍵を差し込み回すと、カチャっと音が鳴る。中から音は聞こえない。

サーチでは、これと言った気配が感じられなかったやじさんは、片方のドアを少し開けて中を覗いた。

やじさんのエリアサーチは魔力の使用頻度が低いせいか夕杏より劣っているのである。

「うむ、ここは普通の倉庫だな、近くには何もないみたいだ。夕杏サーチしてみて」

「うん」

場所を入れ替わり夕杏が入り口の前に行った途端、夕杏は感じた。

「ねえ、やじさん。まだサーチしてないんだけど中に何かいるよ」

「まあ、ダンジョンならいるっしょ」

「これに気がつかなかったの?」

「だから、いやーな予感するって言ってたじゃん」

「あ~そうだったよね、一応感じてたって事ね」

「そういう事だなぁ」

夕杏は改めて中の様子をうかがってみた。

「ここからだと一体ね、なかなかの魔力を感じるよ」

「よし、俺が先に入るから、少し遅れて入ってくれ」

「わかった」

やじは素早く低い姿勢で部屋に入り2m程の所で慎重に辺りを探ってみた。

特に異変が無いので、後ろに手をまわして指で合図を送る。

夕杏は無音のPTチャットで応え、やじの後ろへと着く。

「夕杏、一体でいいか?」

「うん、多分右隅」

「OK、ゆっくり左隅に行くぞ」

次の階への階段の確認と、相手の様子を視認するためだ。

「あれってさ、何かのカゴ?檻?」

「やじさん、あの中にいるよ」

「お前たち、人の子か?」

「げっ、なんか聞えたぞ」

「応えてみようか、あなたは誰?」

「やはり人の子か、私はここのマスターに無理やり召喚されたのだが、意に沿わなくて帰ろうとしたところ、封印されてしまった、可哀そうな女の子じゃ」

「夕杏、これは新しい罠だ。そう思うんだが、女の子となると放っておけないな…、いやいや、やっぱり罠か?」

「でも、この階にはその子しかいないわね」

「人の子よ、我を信じ、もそっと近づくがよい、哀れな子の願いを無にするでないぞ」

「夕杏、どう思う?」

「コミュ能力あるし、モンスターであったとしてもかなり知能が高い方ね、いきなり襲ってくることはないと思うよ」

「罠だとすると、あのカゴだけか…、 よし、行こう」

「うん」

「俺だけ先に近づくから、様子みてて」

やじさんは、そろそろとカゴに近づき中を確認した。

「お待たせ、かわいいドラゴンちゃん、夕杏、こっち来ていいぞ」

「へ~ホント可愛いね、お名前を聞いても良いかな?」

「人の子よ、少し馴れ馴れしいぞ、だが来てくれて嬉しいぞ。 そして残念だが、基本的に我々に名という概念はないのだが、ドラゴンちゃんは止めて欲しいぞ」

「わかった、名前は後にする事にして、とりあえずこの籠から出すことを考えるか」

ドラゴンの体長は1m程で体高も同じ程度だ。目がクリンとしていて愛らしく女の子ぽく、話し方から見ても生まれて間もく、ここへ呼ばれてしまったのではとの印象を受ける。

人と話すことが出来るモンスターは限られている。知性が高く魔力保有量が多い事が条件となるので、魔王クラスやドラゴン位な物で、この世界では希少な存在といえる。

「ここのマスターと言ったら、ダンジョンを作ったやつか、最初はそこら辺からモンスターを集めるって噂だったけど、ホントだったんだな、そういえばお前の親は何故助けに来ないんだ?」

「私の親が来たら、この国壊れる。そのうち誰か来るから、少し辛抱しろと言われた」

「なるほどな、じゃあ、なおさら助けなくっちゃって思っちゃうよ」

「きっと、城の地下だから、いつか人が来ると思ったんでしょうね、ごめんね遅くなって」

「思うに、この籠の青白い光は、雷系をまとわせていると見た。触るとビリビリどころかドカンだなこれ」

「じゃあ、まずは力を抜くね」

夕杏は土魔法でカゴの近くに土ゴーレムを作り上げた、荷物を運ぶなど簡単な動作しかできないが今回はこれで十分だ。

そして氷魔法で大きな氷の矢を作りゴーレムに持たせた。

「ごめん、ちょっと目を閉じて、小さくなっていてくれる」

小さなドラゴンに声をかけると、夕杏はゴーレムに矢をカゴに近づけるように命令した。

青白い光が少しずつ矢を通してゴーレムへ流れていく、その都度ゴーレムの体からは、きしむような音がしていたが、力を受け止め切ったのか、一瞬ののち、真っ白な蒸気とサラサラの砂へと変わった。

「やじさん、いいよ」

やじさんはいつの間にか取り出し、気をためていた魔刀やじ左文字を振りかぶり、そっと呟き刀身を落とす。

「鉄切…… またつまらぬものを切ってしまった」

「人の子よ、もう出ても良いのかな?」

「ちょっと待ってね、やじさん何か負荷がかかった?」

「いや、もう何もないと思う」

と言いながら、切れたカゴの格子部分をどかした。

「出てきていいよ、お疲れさま」

夕杏はドラゴンの子をぎゅっと抱きしめた。

「人の子よ、恥ずかしいではないか、悪い気はせぬがな」

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