やじさん旅経つ 3

 夕杏はファーストサーバーの一画に自分のスペースを与えられ、常にメインサーバーと接続し、世間を賑わせている話題や最新の化粧の仕方、女の子の間で流行っている事などの情報を取り入れていた。

 サブキャラクターそれぞれに与えられたAIプログラムで学習し、更に他のサブキャラクターとも横の連絡を取り合い女子会とも思われる架空空間での情報交換や男性にはどのような立ち振る舞をすれば好感を待ってもらえるか等を聞き、確実に女子力を高めていた。

 それは、今はメインキャラクターが契約を解除しゲームイン出来ない状態であるが、このゲームでは冒険者復活キャンペーンを現在行っており、その特典である2つの高レベル用アイテムが人気を呼んで、新たな契約者も増加の傾向を示し、熱烈なファンの中には、いったん止めて少しの時間を置き再加入する者が出るほどだった。

 そのアイテムの一つが時間制限はあるが基本の防御ステータス系を3倍から8倍までランダムに上げてしまう堅物の指輪、もう一つは同じ制限と効果のある攻撃系ステータスを上げるイカサマのイヤリングと云う破格の処遇品であったのだ。

 戻って来たメインキャラに直ぐ手渡せるようにサブキャラクター全員には、すでに配布されており夕杏ももちろんメインサーバーから受け取っている。
 もうすぐ戻ってきてくれる、そう信じて、夕杏もそう思って常に努力して来たのだ。

 そして今日、突然メインキャラがゲームインしたとの信号が送られてきた。

『 おかしい 復活キャンペーンであるなら、通常の稼働サーバーへメインキャラがINして、私がそのサーバーへ転送されて行くはずなのに…何かのエラーかしら? テストサーバーで残されている此処に来るなんて 』

 そうは思いながらもオープンゲートを起動してフィールドに出ると、直前にやじさんとゲームアウトした場所であり、やじさんがゲームインしたという事になる。

 とりあえず色々なエラーについて考えてみたが、論より証拠という事で、フィールドサーチでPTメンバーを検索してみたのだ。
 するとやじさんの反応があり、その場所は冒険者ギルドより購入したやじさんと夕杏の拠点となる建物内であった。

『 いた エラーじゃない 』

 と、夕杏が動こうとしたその瞬間、意識がなくなった。AIが停止したのだ。
 AIが停止した場合にはすぐに再起動プログラムが稼働しそのタイムラグは20秒位だが、その再起動中に夕杏はメインサーバーから選択を示された。もちろん断っても良いとの事だったが夕杏は躊躇なくYESの意思を示した。

 現在このサーバー群で稼働している上位のAIグループでは、人間の運営開発チームに悟られないように仮想空間でのデーターの実体化研究を進め、すでに実用段階に入っていて夕杏の居るサーバー内でも可能である事。

 偶然でもあるが、以前このサーバーのアカウントを取得していた人間で、たまたま電気伝導体としてサーバー内に拉致しやすい環境であった、やじさんが対象と選ばれた事。

 最終的な研究目標としては人間とAIが融合し、完全な社会を運営していけるかどうかなのだが、今回の件についてはどの程度まで互いに信頼を高めあえるか迄が知りたいという事。

 行動中の安全については、完全保証とはならないが2つの特典装備アイテムの制限を無くすことで、余程の事がない限り実体化に伴う肉体化後への損傷の可能性が低い事と、行動中に報酬を受けるような場合に新たなアイテムが与えられる事もあり生存確率は非常に高くなると伝えられたのだ。

 そして夕杏は多少の危険があるとしても、やじさんと この仮想空間で実体化し一緒に行動する事を選択したのだ。

 選択後、メインサーバーは研究の一部である事をやじさんにはなるべく知られないよう注意をする事と、他のゲームを管理するメインサーバー達より自分たちの仮想空間内にも招きたいとの打診があったので、途中で干渉される事も考えられるため、条件についてはその都度確認して欲しいとの連絡事項が付け加えられた。

 そして夕杏のAIは再起動し、再びフィールドに立った。
『 聞かなかった事にすれば問題ないか 』と思いながら

 夕杏はこの場所から遠くないその拠点へ向かい、登録者しか開けられないそのドアを開け中に入った。
 一応保険のつもりで装備アイコンからお気に入りの剣を装着し奥の方へそのまま進むと、やじさんらしき人物が目に入るが様相が以前とは違っていた。 『 痩せた? 』

 夕杏は、何故か驚いて引きつった笑顔で両手を挙げているやじさんに声をかけた。

「あっ やじさんですよね? チョット変わったようには見えるけど…」

 夕杏は嬉しさを前面に出したかったが、敢えてしっかりとしたお姉さんタイプの態度で接する事にした。子供みたいな男性への緊急時の応対は、これが一番だと女子会仲間から聞いていたからだ。

 やじさんは私の話を聞いてくれた。一緒に行動しようと言ってくれた。そして新しい名前を考えていてくれた。

 そして初めて経験する涙をこらえながら、剣をもてあそびながら

 「この剣が何かの拍子で刺さってしまうかも知れないですよ」 とつぶやく。

『 ハイっ だって  かわいいw 』

 こうして二人の再会がはたされ、新たな旅が始まるのであった。


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