やじさん若くなる?  1



 夕杏と再会できたやじさんは、本当に嬉しかったが、複雑な心境でもあった。数年の間に多くのミッションやクエストを共にこなしモンスター達とも闘ってきた、たった一人の仲間である。

最初の戦いは見るに耐えない結果だった。

 たった1匹のゴキブリ型のモンスターだったが、夕杏が「キモイ~ わたしパス」と言いだしたので、早く戦えと説得している最中のやじさんに、モンスターの背後からのクリティカルヒットが決まって戦闘不能となり、その勢いで夕杏も倒れた。

 この場合、単にレベルが低いという問題ではないと思うが、初めてのパーティープレーというクエストを完了したことになり、報酬の体力回復ポーションを手に入れたので内容はともあれ成功した事にはなる。

 ちなみに勝利した場合の報酬はレベルが一つ上がるという初心者専用のサービスクエストだったのが残念だ。

 この事を反省材料にした二人は。戦闘の前には必ず打ち合わせをするという当たり前の行動を決めたのである。

 やじさんは他のゲームを色々とやってきた経験も知識もあって、夕杏にその全てを教えた。
 このゲームには当てはまらない事もあったが応用できる事もかなりあり、その後の戦闘では運悪く負ける事もあったが安定した戦闘を行う事ができ、ハイクラスのモンスターにも勝てるPTに成長していったのである。

 何度も何度も打ち合せもしたが、リアルでの自分の事なども話すようになり二人は友人以上になっているとやじさんは思うようになった。 でもそれは、あくまでもゲームの中の出来事だった。
 しかも相手はゲーム内のデーターでしかなかった。

 これからは違う、スイッチを押して入り、今日は時間だからといって簡単にリアルに戻るという事はできないのだ。

 俺も夕杏も元の3Dデーターに戻れるという確証はない以上、最悪の場合ケガをするだけでは済まないのもしれない。

 簡単に一緒に行こうと言ったが。俺は夕杏を守り切れるのか?そう思うと大きな不安が押し寄せてくる。

 『もう少しだけ強くなりたい』そう思うのであった。


 やじさんの素直なところと、知識のあるところは、夕杏にとって好感が持てるところであり、頼りになる人物である。

 たまに戦闘前の打ち合わせで喧嘩みたいな言い合いなどもするが、自分のことを考えていてくれての事だと分かっていた。

 ただ、もう少し自分の事を頼って欲しい、私もやじさんと同じくらいの力があるのにどうして?という不満がある位だ。


「ねえ やじさん」

「ん?」

「やじさんってさあ、前に40過ぎている おっさんだって自慢して言っていたけど 本当なの? 前より若く見えるんだけど」

「そういえば ここへ来て前より体が少し小さくなった感じがするんだよなぁ…」

 そう言いながら、ミッションの報酬で手に入れたパネルミラーの前に立ったやじさんはじっーと、自分の姿を見た。そして自分の身に起こったことを、曖昧ではあるが理解できた。

「なあ 夕杏 ここに来る時の話はさっきしたよな」

「うん 勢いよく吸い込まれて来たんでしょ?」

「うん その時 離れていた自分の肉体が気がついて慌てて追っかけて来たと思うんだけど、古めの細胞は追いつけなかったのかも知れない。 多分だけど… 多分 動きが活発で、移動の瞬間に間に合った新しめの細胞だけが追いついて体が再構成されたのかも知れないと思うんだ」

「じゃあ じじ臭い若者になったって事?」

「もっと人を傷つけない表現のしかたってあると思うんだけど、それに近いかもしれない」

「じゃあ イケてるおじさん?」

「お前じゃその辺が限界か ともかく見た感じでは 俺の過去の記憶からすると、夕杏位の年齢の肉体になったみたいだな もはやおじさんではない」

『だから 中身はおじさんだって』と思いつつ

「やっぱり 若くなってたんだ そう思ってたけど」

とリアルのやじさんの本当の姿を見た事のなかった夕杏はにっこりとほほ笑んだ。

「ありがとう 夕杏 言われなかったら気づかなかったかもしれない所だったよ」

 やじさんは少し安心した。もしこの先でモンスターと出会ってしまったときの事を考えると、正直いってリアルのままの年齢でのガチの戦闘はきついと思っていたからだ。

「そういえば 夕杏 剣装備してたけど 武器とか防具は全部そのままか?」

「うん 何も変わってないみたいだよ」

「そか 一応見てみるかな」

 以前は、ゲームの中でコントロールパネルをイメージするだけで目の前に浮かび上がってきたのだが心配性でもある、やじさんは大事をとって一応声をだしてやってみる事にしたようだ。

「メインパネル  お~出た出た  装備類も見たところ記憶にある物と変わっていないみたいだなと レベルは各ジョブカンストしてるからOK  魔法スキルも物理スキルもオールグリーンでOKと  あれ? 変だな ジョブの設定が開かない 夕杏は?」

「えっと わたしも開かない   え~今のジョブも分からないよ」

「装備類はかぶりもあるけどジョブ縛りあるからな  最後に落ちた時のジョブは、たしか騎士だったかな 試しに装備マクロをポチっとな」

このゲームの設定では、敵の前に立ち注意をひき、相手の攻撃を引き受けるタンク役の騎士

その合間で敵の注意を剥ぎ取らない程度のダメージを与え、最後に決めの一発を得意とする剣士

タンク役のダメージを管理して、戦闘中に体制が崩れないようにする回復魔導士

剣士の物理攻撃ではなく、魔法でダメージを与える攻撃魔導士

剣と魔法の両方を使い分ける、魔法剣士の5ジョブが基本になっている。

 その他にダンジョンの罠を外したり、敵の弱点を分析したりする忍者、日本刀や弓が装備できる武士等と細かなジョブはあるが、こちらはミッションやクエストなどをこなしてスキルを得る形をとっているのでセカンドジョブといわれている。

 やじさんはゲームを引退する日のジョブを騎士だと記憶していたので、試してみたのだ。


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